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名古屋高等裁判所 平成元年(行コ)13号 判決 1990年1月29日

富山市海岸通三番地

三菱レーヨンアパート東B棟三〇三号

控訴人

田島一郎

富山市丸の内一丁目五番一三号

被控訴人

千種税務署長事務承継者

富山税務署長

田畑勤

右指定代理人

木田正喜

三輪富士雄

山本清

今村勉

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が昭和六二年七月一七日付でした控訴人の昭和五九年分所得税の決定及び無申告加算税賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

当事者双方の事実の主張は、控訴人の主張を次に付加する他、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  所得税は相続税とはその本質を異にするものであるから、所得税法の解釈に相続税法を援用することは的はずれである。

二  わが国の税制は租税法律主義をとつているから、単なる税務当局内部の取決めにすぎない基本通達は法令ではなく、通達は納税者を不利に拘束するものではない。

三  刑事事件においては「疑わしきは罰せず」とか「被疑者が疑わしき場合は、総て被疑者に有利に」というのが通説になつているが、税法の解釈についても、疑義がある場合は、総て納税者に有利にというのが法の精神に合致する。

四  原裁判所は、控訴人が申請した千種税務署所得税課松田利加子、名古屋地方国税不服審判所長に対する証人尋問を行う努力を全くせず、また、平成元年四月二四日の口頭弁論期日において被控訴人の提出した準備書面に対し控訴人が反論する時間を与えることなく結審したが、これらの手続きは不当である。

第三証拠関係

本件記録中の原審における書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がなく、失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は次に付加する他、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

(当裁判所の判断)

1  所得税法と相続税法はそれぞれの課税目的を有する別個独立の法律であるが、それらが相互に矛盾なく機能し、適正な課税がなされねばならないことは当然であるから、死亡保険金に関する所得税法の解釈適用にあたつても、所得税と相続税の二重課税を避けるために相続税法の諸規定もふまえた上、これと矛盾なく整合性をそなえた解釈をすべきものである。従つて、支払われた死亡保険金が所得税法の課税対象となる所得にあたるか否かを判断するに際し、相続税法の規定を検討し、その結論を導き出す根拠の一つとして同法の規定を援用しても何ら異とすべきものではない。

2  我が国が租税法定主義をとるものであり、税務当局による基本通達が、一般国民を拘束するものではないことは、控訴人主張のとおりである。しかし、本件においては基本通達九-三〇それ自体に基づいて課税所得金額が決定され、あるいは、所得税額や無申告加算税が賦課されたわけではないから、控訴人の主張は失当である。

また、控訴人は税法の解釈については「疑わしきは納税者に有利に」なされるべきものと主張するが、本件は、事実認定においても所得税法の解釈適用の上でも、疑義が生じ、その判定も容易でないというような事案ではないから、この点の主張も理由がない。

3  控訴人は原裁判所の訴訟指揮を論難するところ、本件記録によれば、原裁判所が控訴人申請にかかる二証人の取調べを行わなかったこと、平成元年四月二四日の口頭弁論期日において被控訴人が同日付の準備書面を陳述し、これに対し控訴人が「控訴人の従前の主張に反する点は否認ないし争う。」と答弁し、同期日において結審したことが認められる。従って、控訴人による二名の証人申請が却下されたことは控訴人の主張するとおりであり、また、新たな準備書面を提出、陳述させるなどの方法による控訴人の反論のために続行期日を指定するという措置は採らなかつたのであるが、裁判所の訴訟指揮は合目的的裁量行為として裁判所の合理的判断に委ねられるものであり、右記録から認められる原審の審理状況に照すと、この証人申請却下が、裁判所の訴訟指揮として許容される範囲を逸脱するものであるとは到底認め難いところである。

二  よつて、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 宮本増 裁判官 谷口伸夫)

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